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至福の時 〜湊雅史という「音楽」〜

 7月某日

 バンドHPのwebメールを、珍しく俺がチェックする。
 受信メールあり。

 >Subject : フライアーパーク宗形です。

 1月に出演したフライアーパークからのメールだった。
 けっこうご無沙汰してるな。そういえばこないだmiyaが青木ちゃんのライブを観に行ってたな。
 俺ももっと出て行かなくちゃダメだよなぁ、なんて思いながら読み始める。

 >9月にBon Temps Roule(ボントンルレ)という湊雅史氏在籍の・・・

 おお、湊さんが来るのか。
 自分のバンドのツアーってこと?
 奥田民生のツアーってもう終わったんだっけ?
 確かライジングサンにも来るし、精力的な人だよなぁ・・・
 観に行こうかな。
 音源は何枚か持ってるけど、生で観たことないもんな。

 >是非対バンで出演して頂きたく連絡致しました。









 
  はい?









 >是非対バンで出演して頂きたく連絡致しました。










 おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい何言ってるんですか宗さん。

 突然の事に、頭の中でどう処理していいか判らず
 それまでデーンと座っていたソファーの上に爪先立ちでしゃがむ形になりながらタバコに火をつける。
 で、膝がプルプルするのに気付き、すぐに正座の形に座り直しもう一度メールに目をやる。


 >是非対バンで出演して頂きたく連絡致しました。
 ・・・確かにそう書いてある


 「うは♪やりたくねー」

 これが一番初めに反射的に出た正直な感想。でも即座に考えを改める。

 「やっとけ。むしろやっとけ。」 うんうん。
 「絶対いい経験になる。そもそも失う物なんて無いだろ。」 うんうん!
 「恥かいてこい。打ちのめされてこい。」 うんうん♪

 タバコを一本吸ってる間に、すんげえやりたくなった。
 でも「対バン」はちょっと無理があるでしょ、宗さん。 「前座」で。 せめて「前座」って言って!

 で、やることになった。



 湊さんがどういう人なのかは こちら を参照してもらうとして
 (音源もあるので興味のある方はぜひ全部見て頂きたい。とんでもないことになってます。)
 俺の湊さんへの思い(?)みたいのを書いてみようと思う。

 湊さんのデビューは「DEAD END」というヘヴィメタルバンド。
 俺は当時、ハードコアと並行してヘヴィメタルも大好きだったから、当然アルバムも買って聴いた。
 「DEAD END」解散後に下山淳氏らの「RAEL」に参加した時のアルバムも持っている。
 途中から洋楽ばかり聴くようになったので、その後の活動までは追いかけていなかったが
 最近なにかと名前を目にするので、手持ちの音源を引っ張り出してよく聴いていたところだった。

 「色っぽいなぁ・・・」

 これが当時から持ってる印象。
 タイトで立体的。艶のある音。自信に満ちた「間」。全てに意味があるフレーズ構成。
 テクニックがどうこうなんて素人の俺には解らないが、とにかく衝撃的なドラムだった。
 難しいフレーズはともかく、簡単で効果的なフレーズも沢山あったので結構マネをした。コピーではなく、「マネ」。
 「影響を受けた」なんて、真面目にやってる他のドラマーに申し訳なくて軽々しく言えないが
 今でもその影響は残ってて、俺の「手癖フレーズ」の一つだったりするのだ。    

 そもそも俺はドラマーではない。いや、ドラマーなんだけどね。
 えーと。
 「ドラムという楽器で自己表現が出来る人」 をドラマーというのなら
 俺は 「曲に合わせてドラムを叩くことしか出来ない人」 だから、ドラマーではないってこと。
 そんなお手軽ドラマーの俺がこういう機会に恵まれたのは何の因果だろうか。
 エセドラマーが最高峰のドラマーと同じステージに立つ(いや、実際は座るんだけども)。
 これ、いいんですかね^^  もう、本当ごめんなさい。

 宗形さんがどういう理由で俺たちに声をかけてくれたのかは知らないし
 何を期待されてるのかも分からないけど、こんな機会は滅多にあるものじゃない。
 何も考えずに、いつも通り「曲に合わせて」ドラムを叩こう。それだけを考えよう。
 だってそれしか出来ないんだもん。それだけをきっちりやってこよう。 

 で、やってきた。



 ライブ前日になっても緊張感はゼロ。こんなのでいいのか?ってくらいゼロ。
 さすがに当日になったらガチガチだろ、なんて思ってたら
 ネットで見つけたサイコ小説がやたらと面白く、読み耽ってしまい緊張する暇が無い。
 なかなか治らない風邪で頭がボーっとしてるのもいい感じだ。いいのかそれ。

 フライアーパークに着くと、丁度Bon Temps Rouleのリハーサルが終わるところで、30秒位だけど聴くことが出来た。

 「音、でけえ!」

 ブルース系のバンドという認識だったが、音圧はロックのそれだ。
 この後の本番で、その圧倒的な迫力に酔うことになる。

 宗形さんがBon Temps Rouleの方々を紹介してくれた。皆さん気さくな方で安心する。
 湊さんはドラムキットの調整を終え、最後にステージを降りてきた。
 対バンがあることすら知らなかったらしく、驚いていた。 俺も驚いた。

 Sugar Bulletsのリハーサルで自分のセッティングにする前に、湊さんのセッティングを確認してみる。
 コンパクトで合理的なセッティング。プレイする音楽や会場によって変わるものなのだろうから、たまたまだとは思うが
 自分のセッティングに近かったので妙に嬉しかった。
 実際、シンバルやタムの位置はそのままで、高さをほんの少し調整しただけで自分のセッティングになった。
 この頃になって、初めて心地よい緊張感がやってきた。

 20時30分、Sugar Bulletsのステージが始まる。
 俺に限って言えば、ライブが決まった段階で完全に開き直ってたのが良かったのか
 いつも通りの凡ミスは多々あったものの、全体的に落ち着いて安定したプレイが出来たと思う。
 ていうか今までで一番良かったんじゃないだろうか。他のメンバーはどう思ってるか知らないけどね。
 全員が病人と負傷者ながら、バンドとしてもこの日のライブは良かったと思う。
 最後の2曲あたりだろうか、気がつくと外から戻ってきたBon Temps Rouleの方々が客席の後方に。
 ヘタレな俺は、こういう状況になるとアガってグダグダになってしまうことを予想してたのだが
 開き直りというのは凄いもので、大きく崩れることなく最後までプレイ出来た。 あれでも出来たんだよ!
 普段はやらない、調子こいたフレーズまで入れる余裕があったのには自分でも驚いた。

 露払いとしては上出来だろう。
 観に来た人はどう思ったのかはわからないが、気持ちよく、そして楽しい時間だった。




 21時を回ったあたりでBon Temps Rouleのステージが始まる。
 4人とも極めて自然体。 ごく当たり前に音を出してる感じ。
 演奏をすることに何の気負いもなく、湧き出てくるものを素直に表現してるだけ。
 なのに、その音の一つ一つがもの凄い説得力を持っているので序盤から引き込まれざるを得ない。
 気がつくと体が前のめりになっている。 釘付け状態。

 湊さんはというと、序盤は静かな立ち上がり・・・では全然なく、のっけから「やっちゃって」ます。
 いや、静かといえば静かなんだけども、基本が「やっちゃってる状態」だから、片時も目が離せない。
 スッと曲に寄り添ったかと思うと、すぐに揺さぶり、さらには突き放しどこかへ行ってしまう。
 そしてすぐ戻ってきてまた寄り添う。再び突き放すのかと思っていると、今度は絡み付いて離れない。
 こんなプレイが色んな角度から予測できないタイミングで繰り出され、曲に生々しい表情を作っていく。

 以前読んだ雑誌に、Bon Temps Rouleは音楽との会話を楽しむためのバンド、とあった。
 なるほど、まさに会話。音と会話をしながら音楽を作っていく。それがリアルに分かるのがすごく嬉しい。
 湊さんは全身全霊を込めて、なりふり構わず、真摯に、そして気持ちよさそうに音楽との会話を続ける。
 そんな中で、時折いたずらするように出してくるジョン・ボーナムのフレーズ。

 「うひょーっ、同じ音♪」

 使ってる楽器が同じだからというだけじゃなくて、タイムから音のデカさまでジョン・ボーナム。
 乗り移ってるんじゃないかと錯覚するほどだった。しかもあくまで持ち駒の一つとして出してくるから憎い。

 そしてやはり思ったこと。

 「色っぽいなぁ・・・」

 前述した湊さんのプレイへの印象だが、今回のライブを観た後もその印象は変わらなかった。
 むしろ間近で観られた分、より強くそう思った。 本当に音楽とセックスしているような、そんなドラムだった。
 何より感動したのは、ドラムが「歌ってる」ということ。 凄いぞ、本当に歌ってるんだから。
 この境地にたどり着くまで、どれだけの努力をしなければならないんだろう。
 悔しいとか、凹むとか、打ちのめされるとか、そんなのが許されない「圧倒的な感動」だった。



 ライブ終了後。

 感動を噛み締めつつ、このまま帰るのは惜しいよなーとか思いながら
 遊びに来てくれたジャイアン・リサイタルの青木ちゃんのボトルにタカる。

 「湊さんと話してくればいいじゃない、こういう時の恥はかき捨てだよ大原ちゃん。」

 話せったって、何を話せばいいのかさっぱりわからない。

 「スネアはアクロライトでしたね。いつ頃のモデルですか?」 お前アクロライト持ってないだろ!
 「スピードキングいい音しますねー。俺もペダルはラディックなんですよー。」 モデルが違うだろうが!
 「俺のプレイ、どうでしたか?」 そんなどうでもいい事、申し訳なくて聞けるか!

 どんな話題を振っても上手くいく気がしない。 あーでもないこーでもないと頭の中でシュミレートしてると
 miyaが湊さんに普通〜にお疲れ様の挨拶をしていた。反射的に俺もそれに便乗する。

 「お疲れ様です。今日はありがとうございました。」 すると
 「おおー、お疲れさんでした。」 とニッコリ笑って湊さんの方から手を差し出し、握手をしてくれた。 感激。

 その直後、湊さんが機材を片付けにステージに向かったので
 すかさず連れにデジカメをスタンバイしてもらい、図々しくも近づく。

 「湊さん、写真・・・ 一緒に撮ってもらっていいですか?」
 「写真?おお、いいよー」

 気軽にOKしてくれて、また感激。連れのカメラとmiyaのカメラで撮ってもらう。
 気がつくとカメラに向かって変な顔とかしてるし^^ 意外とノリのいい人なんだなと勝手に思う。
 つられて俺も一緒に変な顔をする。当然です。
 その後、また湊さんが手を差し出してくれて再び握手。 さらなる感激。
 そしてなんと、その握手が 腕相撲の形の「アレ」 になり、ギュッと強く握られた。倒れるかと思った。

 「お前、もっと頑張らないとダメだぞ」
 そう言われてるような気がした。ていうか、そう捉えることにした。
 はい、もう少し真面目にやってみます。

 「次はどんな仕事が入ってるんですか?」
 思い切って話題を振ってみた。立ち話ならなんとかなる。
 「次? 次はね、無いんだよね。」
 「無いんですか?」
 「うん、声はかかるんだけど、そんなの全部受けてたらプロみたいでしょ。

 何を言ってるんだこの人は・・・と一瞬思ったが、湊さんのスタンスはあくまで 「ミュージシャン」。
 プロとか関係なく、趣くままに好きな音楽を追求していく。それが自然なことなのだとすぐに理解した。

 「あくまでこっちがメインだから。 こっちを大事にしたいんだよね。」
 「・・・素敵です。」

 本当に素敵な人だった。
 とんでもない数のバンドに(同時に)関わり、スタジオワークや人気アーティストのツアーもこなす。
 多忙を極める中、自分の足元を見失わないで音楽に対して真摯な姿勢で居続けられること。
 こんな人に出会えたことに感謝しなければならないと思った。
 ほんの少しの時間だったけど、俺にとってこの日の湊さんとの出会いはそれほど強烈なものだった。
 湊さん、ありがとう。

 そして、こんな夢みたいな機会を与えてくれたフライアーパークの宗形さんに心から感謝。
 結局最後まで「なぜ俺たちだったのか」を明らかにしてくれなかったけど^^


 予感とか、願い事とか、宣言とか、先に言ったり書いたりすると、確実に実行しないという性質を俺は持っている。
 だから閉めの言葉はここには書かないけど

 まあ、そういうこと♪



                            06/09/26 o-hara



まさかの2ショット。湊さん、ツェッペリンの、ジャ、ジャージ(!?)がカッコ良すぎます。


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